「鉄道のチカラ」を地域に注ぐ

秋山 岳


 鉄道との出会いは大学時代の卒業研究だ。その頃は日本でも鉄道車両の設計にデザイナーが関与し始め、JR九州や小田急電鉄、和歌山電鐵等でデザイン車両が走る姿が見られるようになった時期だった。交通計画研究室に所属した私は、もの珍しさに惹かれ、デザイン車両導入による需要への影響について研究を始めた。それをきっかけに鉄道、特に地方部を走る鉄道に興味を持った。


 地域鉄道存続の分岐点、新たな「鉄道のチカラ」を見出す



 2000年以降、この15年間で国内の35路線673.7kmが廃線となった。大きな理由は採算性であるが、地域によっては住民の足として必要不可欠だったはずの鉄道がいつしか“お荷物”と認識されるようになってしまった。廃線は、地域にどのような影響を与えるのか。地域住民、特に移動制約者の交通利便性低下はもちろんのこと、沿線地域の集客能力や地価の低下を招き、さらには沿線に住む学生の自宅からの通学が困難になり、早々に地元を離れざるを得なくなる。未来を担うはずの若者がいなくなるということは、その地域の存続に関わる。
 こうした厳しい状況下にあっても、地域のために、地域と共に、何とか存続を図ろうと試行錯誤する事業者は存在する。その方向性のひとつに、地域鉄道が持っている「価値の顕在化」がある。例えば、鉄道敷設にまつわる歴史や技術から見た文化財としての価値、人と人とが出会い、会話や交流を生むコミュニティ形成の場としての価値、鉄道が存在することでその地域が地域たり得るような象徴的価値、といった具合である。その価値は沿線地域の事情や利用者のニーズによるため、鉄道事業者単独で進められることではなく、沿線地域の協力あるいは協働が不可欠である。
 路線を存続させ、かつ、地域に光をもたらすことができるか、それは沿線地域を含む自らの価値に気付くことができるか否かにかかっている。そして、その「顕在化された価値=鉄道のチカラ」が沿線住民にも認識されるものとなれば、地域鉄道は改めてその地にとって真の意味での地域鉄道となれるのではないか。


 地域鉄道のチカラで地域に光を



 PN入社以来、幸いなことに地域鉄道の再生・活性化に関わる業務を担当できている。地域鉄道の存続のために、それぞれの地域鉄道にどのような「鉄道のチカラ」があるのか、その観点を忘れず、見極める能力を身につけていきたい。
 自動車交通の台頭によって鉄道利用が減少する現象は他の国でも顕著だが、近年、イギリス等で住民が駅の運営等に参画するなど、事業者と住民との協働が行われる例もみられる。日本でも、片上鉄道のように廃線後も保存会によって短区間の鉄道運行や新駅が開業され、地域交流の場となるなど、鉄道と地域との関わり方に新たな形が見出されている。かつて、鉄道駅を中心として地方の町々が栄えた時代があったように、鉄道には地域の元気を生み出せる力があると信じている。地域と鉄道が共に在り続けられる未来を創りだせるよう、今後も励んでいきたい。





06 Sep, 2016 | take_A



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