07.土木構造物のデザイン論理の探求とデザイン実践

 日常生活との直接的な関わりの見出しにくい水門・樋門、砂防ダムといった土木構造物のデザイン論理はどこにあるのか。デザインの実践に先駆けて、まずそのこと自体を探ることが、論理的なデザイナーでありたいと願う、我々の一貫したデザインに対する姿勢である。
>>岡田一天


 名も無き水門・樋門、砂防ダムという施設


 河川の景観デザインを一つの柱として歩んできた当社にとって、その延長線上にある水門・樋門、砂防ダムといった河川の土木構造物のデザインにまでテリトリーを拡大したことは、ある意味では必然の帰結でもあるが、そこには、風景づくりに対する我々の熱い思いと戦略的な意味もある。
 これらの施設は存外に多く建造されている施設である。特に、特別な水門(例えば隅田川の分派地点の岩淵水門、大河津分水の河口締め切り水門)や大規模な多目的ダムなどではない、名も無い水門・樋門、砂防ダムは少し気をつけて見てみると、河川のいたるところに出現している。そして、数多く建造される施設であるが故に、特別なデザイン的な配慮がなされることは少なく、「標準設計」という名の、効率性、経済性を最優先した設計が行われている。その結果、影響の総量という点からすれば極めて大きな影響を河川の景観に及ぼしているのである。
 拠点的な水辺空間あるいは大規模な水門やダムといった、単体として影響力の大きい施設のデザインも、もちろんやりがいのある大きなテーマである。しかし、一見地道な、名も無き多くの水門・樋門や砂防ダムのデザインを通して、良好な河川の景観づくりのための底上げを図っていこう、そしてそのことも、景観設計のもう一つの王道である、といった我々の気概がそこにはあった。


 デザインの拠り所を求めて


 高い志のもとに、水門・樋門、砂防ダムに取り組み始めたものの、当時の我々には、これらの土木構造物をデザインするだけの見聞も蓄積も乏しかった。実感としてあったのは、標準設計に基づく施設デザインが発している言いようの無い味気なさとそれに対する不満、当時あちこちに現れ始めた施設に絵や模様を描く安易なデザインに対する拒絶反応であった。しかし、いくらこのような思いが正当なものではあっても、残念ながら、デザインに向かう能動的な力にはなり得ない。翻ってみるに、我々の河川の景観デザインは「流水の作用が創り出す河川微地形の特徴を河川景観設計へ応用する」「水辺における人々の行動に潜む居心地感覚を河川景観設計に応用する」といったそれなりのデザインの論理を持って進んできた訳である。
 水門・樋門、砂防ダムといった土木構造物のデザインに対して、それなりのデザインの論理を探求することから始めようとしたことは、デザインに対する我々の一貫した姿勢ともつながるものである。公共の施設、空間に関しては、このことが特に肝要な点であると考える。デザインの論理が無いと相手を説得することはできない。何より、もっとも手ごわい相手である自分自身を説得できない、というのが個人的な思いでもある。


 水門・樋門、砂防ダムのデザインの論理の構築


 平成4、5年度にかけて、(財)リバーフロント整備センターより受注した「河川の景観・デザインに関する研究業務(その3)、同(その4)」は、水門・樋門という次なる目標を見出し、研究する機会を得たプロジェクトであり、その集大成が「川の風景を考える〈2〉景観設計のためのガイド(水門、樋門)」(平成8年、山海堂)である。
 この中では、標準設計以前の水門・樋門の設計図書や、伝統的な施設のサーベイを通して、「門構えの原則」「骨格(柱・塔)尊重の原則」の2つの原則、さらにはそれに基づいた、水門・樋門という施設を構成している胸壁、翼壁、門柱といった各要素の景観的な役割を導き出すとともに、それに対応したデザインの方向性を示した。これらの内容は、景観設計の方向性を未だ何ら見出し得てなかった水門・樋門という施設に対して、一つの方向性を世に問うものであったと自負している。
 同様の思いからの砂防ダムのデザインの論理を構築する機会となったのが、平成8年度に(株)アイ・エヌ・エーからの受注により共同で取り組んだ「仙人沢施設配置計画検討業務」である。この中では、標準設計に基づく砂防ダムの景観的な問題に初めて真正面から取り組み「形状の変化(特に縦断方向の変化)に乏しく平板な印象が強い」「水通し部が単なる天端の切り欠けとして設計されており景観的な意味合いが見つけにくい」「袖部が流軸方向の視界を遮り巨大な面としての印象を与える」といった、今まで漠然と感じていた砂防ダムの景観的な問題点を整理し直すとともに、新しいオープンダムの工法も含めて多くの砂防ダムに関する見聞、知識の蓄積を行ってきた。


 デザインの実践を通してのさらなる発展


 水門・樋門、砂防ダムにおいては、デザインの論理の構築の後、積極的にデザイン実践に取り組んできている。幸いにも機会に恵まれ、それぞれ新たな一つの領域を確立しつつある。デザインの実践にこだわることも我々の基本的な姿勢の一つである。
 何故なら、デザインの実践は、我々の思いを世の中に発信する貴重な手段であると考えているからである。デザインの実践を通しての我々の思いの発信に対しては、様々な反応が戻ってくる。お誉めの言葉を頂くこともあれば、耳の痛いこともある。しかし、発信の機会を持てること自体に感謝し、どちらの声に対しても真摯に受け止めていきたいと思う。
 デザインの実践にこだわるもう一つの訳は、実践の中に新たな発展の芽があると信じているからである。実践は、論理と現実の間を埋める行為である。実践を通して、デザイン論理の機能的合理性、施工的合理性は一段と強化されていく。もちろん、デザイン論理から施工までを語れるエンジニアになりたいという我々の貴重な経験の場でもある。
 まだ、数は少ないが、デザインと施工の現場を通して、我々のデザインは日々成長しているし、成長し続けねばならないと強く思う。それが、美しい国土づくりに携わるものの使命だと思う。



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棒川排水樋門完成写真(山形県)     棒川排水樋門模型写真(山形県)



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仙人沢砂防ダム模型写真         仙人沢砂防ダム模型写真
(クローズドタイプ)              (オープンタイプ)




08 May, 2012 | take_A



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