04.県土という単位での 景観の枠組みづくり

 景観に関する我々の仕事のひとつに、広域の全体景観の枠組みをつくるというものがある。枠組みをつくり、これに基づいた景観形成を効率良く進めることにより、人々の心に浸透する地域の景観イメージをつくりあげていくことができる。
>>高松 誠治


 広域の全体景観とは


 我々の扱う“景観”には、大きく2つの捉え方がある。ひとつは、ある場所に立ったときに目にする具体的な景観。自然的、社会的な要素の組み合わせにより、それぞれに異なる様相を見せる、地域の人々の「暮らしぶりの映し」(テーマ3参照)である。これは、人が実感をもって認識する、シーンの景観であるといえる。
 もうひとつの“景観”は、人の心の中に存在する、イメージとしての景観。ある地域の広い範囲を移動したときに受ける地域全体の印象や旅の思い出として記憶している風景、ふるさとを思い起こすときに頭に浮かぶ風景、等々である。これらは、単純にシーンの景観の総和ではなく、その関係性や脈絡、背後に流れるストーリーのようなものを軸として、微妙に 編集された上で、人々の心に浸透する。このことが、例えば旅行先であれば、もう一度行きたいという気持ちにつながるだろうし、住んでいる(住んでいた)地域であれば、住み続けたい(また住みたい)と思うことになるだろう。広域の全体景観を考えることは、つまり、目に見える具体的な風景をデザインするのではなく、人々が地域に対して抱くイメージをデザインするようなものなのだ。


 広域の全体景観を考えることの必要性


 ここで、「広域の全体景観などわざわざ考えなくても、これまでにも地域のイメージはつくられてきたではないか」と思われるかもしれない。確かに、かつてはそうであった。地域特有の地形、自然条件、産業、暮らし方・・・これらが、ひとつの大きな「系」を成し、ぐるぐると循環し、文化として熟成され、全体の景観が守られてきた。しかし、現代における産業構造の変化や人々のライフスタイルの変容等により、画一的で無機質な景観が増殖してきた。地域全体との空間的・時間的な脈絡を持たない風景は、どこにでもある没個性的な風景として、人々に認識される。
 個性がないとおもしろくない、元気が出ない。これは、人が持つ本質的な感覚である。人々は、地域の景観についても、個性が必要であると思いはじめてきた。その地域でしか見られない風景に出会った時、なんとなく広く豊かな気持ちになる。このような風景は、地域の大きな魅力となるのである。個々の具体的な景観形成だけではない、地域の個性や良好な雰囲気を伝える、全体イメージとしての景観づくりが求められているのだ。
 もちろん、一級の自然景観や歴史的価値の高い街並み等は、それぞれ法律等によって守られている。しかし、それだけでは、地域全体の個性や魅力を十分伝えられない。自然により創られた地形空間の中に人々の多様な暮らしが展開する様子、これら全体の「系」によって広域の全体景観がつくられる。つまり、個性的で魅力的な地域づくりのために、普段見過ごされがちな何気ない風景も含めて、広域の全体景観を考えることが大切なのである。


 県土という単位で、地域の景観の個性を考える


 では、どのような単位で景観を捉えればよいのか。その有効なもののひとつが都道府県という単位である。都道府県の境界設定は、地形との関係が深い。つまり、各県の県土は、ある程度の地形空間のまとまりを持っている。また、当然ながら、藩政時代の領土とも関係性があるため、地域の産業や文化等にも、長い間にわたって育まれた地域性が見られ、景観的特徴につながっている。
 さて、県土という単位で景観の枠組みを考えるとしても、その考え方は各県でそれぞれ異なる。地形も違えば、歴史的な背景も違うのである。人の顔と同じで、目の大きな人もいれば切れ長の人もいるし、鼻の高い人も低い人もいる。ここで重要なのは、そのバランスや全体の印象である。目や鼻などのパーツがいまひとつでも、それらのバランスによってチャーミングな印象を与える人もいる。また、その人の人生観や性格も、顔に表れるものである。県土の景観も、チャーミングで雰囲気の良いものであってほしい。
 ここで、我々が携わった2つの県の事例について、それぞれの景観の枠組みに対する考え方を紹介したい。
 山形県のケース(平成5~6年度)では、まず、現況分析として、地形や気候等の自然特性、土地利用や交通等の社会的特性、歴史や文化的特性、シンボル景観についての視覚的特性の把握を行った。これにより、際立つ魅力を持つ山岳(月山、鳥海山)と河川(最上川)をはじめとする山河の構造が大切であることを認識するとともに、県土を4つの地方に分けて景観のビジョンを設定することが有効であることを導き、この枠組みのもとに地方別の景観形成計画を策定した。
 一方、高知県のケース(平成10~11年度)では、現況分析の結果、複雑な地形と豊かな自然を持ち、これらに対して人々が多種多様な関わり方をしていることが景観の特徴をつくっていることがわかった。また、せっかくの豊かな景観を実感できる場が不足しているという課題も明らかになった。これらのことから、“自然に対する人々の関与と実感”の違いに着目して、県土景観を17の景観タイプに分け、タイプ別の景観形成方針を展開した。これにより、実際には様々な景観タイプが混在する各地域に応じて、景観形成の考え方や手法を参照することができるようになっている。これらの具体的な景観形成によって、県土全体の魅力を高めようとするものである。


 ビジョンを着実に実現するために


 以上のような考え方で検討される景観ガイドラインの、“取りまとめ方”について我々が最も重視することの一つに、“絵にかいた餅”にならないよう実効性の高い計画、報告書にするという点がある。ガイドラインがどのように使われるのか、という点を常に意識しながら検討を行っている。
 高知県のケースでは、当初から、1)市町村が主体となり景観形成を推進すること、2)多くの人々に景観形成に対する意識を高めてもらうこと、の2点をガイドライン策定の主目的としていた。このことから構成や内容のわかりやすさを重視するとともに、キャッチーで端的な“景観形成の4つの基本スタンス”を設定する等の工夫を行った。
 また、住民・事業者、市町村、県が、具体的にどのような役割を担うことができるかという推進方策や、景観検討の流れを具体的に示したモデル検討等、すぐに行動を起こせるような内容としている。策定次年度より、早速、これに沿った取り組みが展開されているようである。
 また、山形県のケースでは、考えられるモデルプロジェクトをいくつか例示したり、条例化に向けた取り組みのスケジュールを整理すること等の景観形成の展開例を示した。その成果として、「山形県公共事業等景観形成指針」、「山形県公共施設等色彩デザインマニュアル」の策定等、県による先導的な取り組みが展開されているようである。
 我々としては、今後もこのような取り組みを応援し、魅力ある地域づくり、県土づくりを見守っていきたいと考えている。


  
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月山の可視領域、月山の見えのシミュレーション
 『山形県県土景観ガイドプラン』より



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『高知県景観ガイドライン』による景観タイプ分類




08 May, 2012 | take_A



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