03.暮らしぶりの映しとしての まちの風景

 日々の暮らしの舞台であるまちの風景をどのように整えるか。その本質は、暮らし方、社会との関わり方という、極めて社会的な行為の中にある。市町村の景観形成計画においては、良好な風景を通して、風景に対する社会的なルールを構築することまでを見据える必要がある。そのためには、先ず、自らの足でまちを歩くことから始めることが大切である。
>>岡田 一天


 「景観形成計画」のはじまり


 各自治体が、自分達のまちの景観に関心を示し出したのは、それ程古いことではない。1980年代の初め頃、神戸や横浜などの先進自治体都市が、個々の施設、空間のデザインを超えて、あるいはそれらを体系づけて整理し、公共事業に対する住民の合意を得るために、「都市景観形成計画」を策定したのが嚆矢であろう。この動きはその後、地方の中核都市へと広がり、1990年代の後半には都市の枠を越えて、田園風景がまだ色濃く残っている多くの小さな町村にまで広がるようになってきたのである。
 景観に関する調査、計画、設計を柱の一つとする当社にとって、まちの風景への関心は設立当初からのものであり、それぞれの業務の中で、景観を考えることは当たり前のように行ってきていた。しかし、市町村の「景観形成計画」に、業務として真正面から携わりはじめたのは意外と遅く、時代の流れと同じく、1990年代の後半の頃である。
 景観形成計画という業務に携わりはじめた我々が、あらためて自らに問いかけたのは「まちの風景とは何か」である。我々が到達した一つの結論は『まちの風景は、そこに住まう人々の暮らしぶりの映しに他ならない』ということであった。


 まちづくりにおける景観形成計画の役割


 まちの風景がそこに住まう人々の暮らしぶりの映しである以上、景観形成計画は、まちづくりそのものと強く関わっている必要がある。その思いは、近年のまちづくりそのものに対する関わりへの業務的な発展として現れている。
 法定計画としてまちづくりの基本となるのは「総合計画」である。総合計画およびそれに基づく各種計画によって達成されるまちの姿を、人々が実際に目にするまちの風景という観点から捉えたものが「ビジュアルプランとしての景観形成計画」であると考える。
 ビジュアルプランとしての景観形成計画の役割は、ややもすると、概念的になり、住民にとって分かりにくいものともなりがちな、まちづくりの方向を、風景という一つの実態、実感を通して、明示的に、分かりやすく示すことであると考える。


 まちの風景の成り立ち


 以上のことを基本としたうえで、まちの風景の成り立ちを考えてみたい。一つのアプローチは、まちの風景が何によって構成されているかを明らかにすることである。このようなアプローチからは、まちの風景を構成する様々な要素を抽出・整理することができ、それらの要素の性格(公的な要素/私的な要素、人工的な要素/自然的な要素など)や影響力などを分析することができる。自然科学的な分析のアプローチということができる。
 一歩進めて、風景の良し悪しについてはどうか。上述のアプローチに基づけば、まちの風景の良し悪しは、それらの要素の状態であらわすことができる。家々の外構はどういう状態になっているのが良くて、どういう状態になっているのが悪いのか。道路の街路樹はどういう状態であるのが良くて、どういう状態が悪いのか。現象論的なアプローチである。
 歩をさらに進めて、良い風景を創り上げていくという観点からはどうであろうか。まちの風景を構成する要素がどういう状態であることが望ましいのかが分かっているのであれば、それほど難しい問題ではないようにも思われる。しかし、実態は大違いである。個々の要素がどういう状態であることが望ましいのかが、現象論的に分かっているということと、そういう状態を生み出すということには、天と地ほどの開きがある。
 何故か。まちの風景は、ある一人の人間が上から与えるかたちで創り出すことができないからである。個々の家々の外構がどういう状態になるかは、その家に住まう人の問題である。一見公的な性格が強いように思われる街並みの状態も、その街に住まう人々の問題である。
 こういった、まちに住まう人々の暮らしぶりの問題であるといった、基本的な性格がまちの風景にはあるのだと思う。このような基本的な性格のものとして、まちの風景を考えるとき、まちの風景の成り立ちに対してもう一つのアプローチが大切ではないかと考える。それは、社会学的なアプローチということができるかもしれない。我々は、まちの風景づくりにおいて、このことを大事にしたいと考えている。


 風景への関心を持ってもらうこと


 風景に関心を持っている我々にとって、まちの中をくまなく歩き、そのまちならではの魅力ある風景、特徴ある風景を発見し、そのまちに住まう人々の暮らしぶりに思いを廻らすことは、仕事の枠を越えての楽しみですらある。しかし、その楽しみ、面白さが、なかなか担当者・住民に伝わらない。そのことがもどかしくもあり、不満でもあった。どうやったら、まちの風景の魅力や特徴、その大切さを伝えることができるのか。
 まちの風景の成り立ちに対する分析論的なアプローチ、現象論的なアプローチでの説明は、担当者の理解は得られるものの、我々の抱いている感動までは伝わっていないとの思いがあった。手探り状況の中で試みた方法は、一緒にまち中を歩くことであった。そして、この方法は思いの他好評であった。一緒にまちの風景を見ながら歩き、実際のまちの風景を目の前にしてその面白さ、素晴らしさ、時には危うさを伝える。
 まちの風景に対して、どうやってもう一度関心を持ってもらうのか、が大切であるとの思いをあらためて強くした。ここからスタートしない限りは、まちの風景を考える、まちの風景を整えるという次の段階は始まらない。
 といったわけで、我々の「景観形成計画」のレポートはいつも、「まちめぐりマップ」とセットになることになる。このマップを片手に、一人でも多くの人がまちを歩き、まちの風景に関心を抱き、まちの風景づくりを考えるようになればとの願いを託して。




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皆でまちをめぐることで様々な発見がある




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作成したまちめぐりマップの例



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景観形成計画と地域づくりの各種計画との関係




08 May, 2012 | take_A



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