10.事業化を見据えた計画づくり

 事業を円滑に進める極意は「和」にある。多くの人々に理解され愛着を頂くプロジェクトの実現のためには“未だ見えぬ利用者”の満足感を得ることが使命である。
>>大下 茂


 川上から川下の流れを堰き止める 数々の障害を超えて


 必ずしも構想から計画、そして設計・管理へと円滑に進められるプロジェクトばかりではない。時としてプロジェクト実現の流れは、逆巻くこともあれば止まることもある。さらにその流れが大きく蛇行することもあれば、途中で地中に潜ってしまうこともなくはない。
 プロジェクト実現に対して一貫して取組むことを目指す我々にとって、当面の検討課題のみに着眼と思考をとらわれず、絶えず一歩先を見据えることでプロジェクトの流れを見守ってきた。船でも車でも止まってしまっては方向を変えることは容易ではない。我々がプロジェクトに参画している段階では絶対に止めさせない、という気概は創設以来の我々の一貫した信条である。


 忘れられがちな利用者の論理


 設立当初をいま振り返ると、バブル経済といわれる景気の風が民間企業を中心とした数々のリゾート開発構想を生みだした。そのような中で「芳賀スポーツパーク基本構想(平成元年度)」「作東セントバレンタインリゾート事業(平成元年度)」「藍之島リゾート開発事業(平成元年度)」「今治来島地区リゾート開発基本計画(平成2年度)」等への構想や計画づくりに策定する機会を得た。これらの開発事業ではフィジカルプランづくりと並行して、ネットワークを活かし、税理士の参画も得つつプロジェクトの財務的フィージビリティ検討を合わせて実施する等、事業実現の意思決定のための諸条件を多角的に検討し提言する役割を担ってきた。
 これらの事業参画を通じて我々は、「地元地域(自治体や地域住民)の論理」「事業者・運営経営者の論理」「利用者・来訪者の論理」の3つの論理が開発事業には重なり合わさっていることと、相互間に一種のトレードオフの関係があることを会得した。そして事業の理念・意義を具体的に展開する中で、本来は主役であるべきはずの「利用者の論理」がどうしても後づけ的になってしまうことを経験した。
 平成3年度から始まる「蘇我駅周辺地区」を舞台とする構想・計画づくり、平成4年度からの「苫田ダム環境デザイン検討」等のダム湖周辺整備計画づくり、数々の河川空間整備等の、とくにフィジカルプランをつくるにあたって、我々は先の経験を活かして『誰が』『いつ』『どのようなことをする』ための空間をいま構想・計画・設計しているのかを絶えずディスカッションし、検討段階では<未だ見えぬ利用者の姿>をイメージして検討することを心掛けてきた。我々が図面や報告書で示している絵柄はあくまで、演者や観客が楽しむための舞台であり、下支えするシステムづくりであると捉えることが、必ずや最後には円滑な事業化につながるものと確信している。


 現地に身をおいて考えることの当たり前の着想法


 技術者である前に一利用者の立場に立って考えたい。少しばかりの時間と費用をかけることで計画案や設計案はぐっと現実味をおびてくる。その一つが計画や設計の草案・エスキスをもとに現地に身をおいて考えることである。
 2カ年に亘って調査・計画づくりを行った「佐渡グランド計画策定調査(平成3~4年度)」や「山形県県土景観ガイドプラン策定調査(平成5~6年度)」では、幾度となく現地調査を行い、関係者へのインタビューを試みた。近年手掛けた都市マスタープラン(千葉県長生村:平成9年度、千葉県印旛村:平成10~11年度)、景観形成計画(新潟県長岡市:平成3年度、茨城県古河市:平成8年度 等)、掛川市の緑の精神回廊構想(平成9~11年度)等においても、地元の方々以上に地域のことを知り、地元への愛情や愛着を持ちたいと願って現地に足を運んだ。そしてその際には、現在の状況だけを表層的に確認するのではなく、地域の履歴・土地に刻まれた歴史を理解することを心掛けることにより、過去から現在までに土地に住まわれた先人たちの地域づくりに対する智恵を教えられ、それを後世に継承する立場から計画・設計を行ってきた。
 円滑な事業化は必ずしも「こと・もの」をつくるため、そのための「かね」を用意する手立てだけでは不十分であると考えている。個別プロジェクトによって事情は異なるが、「もの・こと」のもっとも基本にあるものが、関係者の「こころ」を一つにすることにある。プロジェクト参画の立場や住んでいる地域を越えて、関係者がこころを一つにできるテーマを模索することに手間を惜しまぬことはこれからの技術者の必携の資質であると思っている。


 これからは“ソフトインフラ”による真に美しい国土づくりに挑戦


 人口が停滞あるいは減少に転ずるとされる2007年を目前に控え、集中的・効率的に良好なインフラ整備が求められるであろう。その時我々は、プランナーやデザイナーとしてモノづくりに専心しすぎなかったかを深く自問したい。これからの時代には、単にハード面でのインフラ整備のみによる美しい国土づくりに貢献するだけでなく、利用者の美と徳を引き出し、時間とともに風格と愛着が育つソフトインフラの提案を心掛けたいと感じている。


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シンポジウムは“内”と“外”の人が一堂に会して
お互いの立場、視点から語り合える格好の機会であり、
関係者のこころを一つにすることにつながる効果的
な手法である(潮来町「前川とまちづくりを考えるつどい」より)



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佐渡グランドデザイン計画では〈佐渡みらい地域経営〉
の実現のため、ソフトの仕組みづくりを中心とした
インフラづくりの必要性を提言した



08 May, 2012 | take_A



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